フィクション
失恋したの初めてなんです。
失恋っていうか、自分が大切にしたいって思った相手から愛想尽かされるの初めてだったんです。
男の人なんて、好かれこそしなくても、身につけてるもの一枚一枚剥いで見せれば相手してくれたのに。
大好きだったのに、相手にされないのが悲しくてわがままで、こじつけで繋がろうとしたら見透かされた。
時間は巻き戻せないなんて陳腐なこと今更思う。戻せたとしても、こうならない方法なんて分からなかったんだけど。
結局、失って初めてその方法が分かった。そんなこと、この歳で経験して、人を軽視したら軽蔑して返されるなんて当たり前のこと知る。どんな環境に身を置いてたらそうなるんだって感じだけど、過酷だね…。
だから今は結構真面目に人間らしく生きてる。
次、大切にしたいと思った人のこと絶対こんなことで失いたくない、でもほんというと取り戻したい。
次の人のこと考えられるほどわたしのなかでは終わってなくて、まだ頭の中で淀んでる。
高校生の時の記憶、もうあんまりないけど少し気になってる男の子がいた。
三年生のとき。
同じクラスなのにほとんど話したことはなくて、でも、ずっと話したいと思ってた。
好きとかそういうのじゃなくて、シンパシー的な、そういう。でも、そんなことも忘れてたんだけど。
高校の同級生の、今もよく会う女の子から「彼が、話したいんだって」と言ってきた。
そう言われて久しぶりに彼の存在を思い出して、約8年前の記憶に思いを馳せた(ていうかもう8年も経ってるのか、怖い。)わたしがセーラー服着て浮かべた思いは宇宙空間でもゆっくりゆっくり彷徨って、やっと、通じたのかー。とか、そんなこと思った。
彼がどこに住んでいるのかとか、なんの仕事しているのかとか全然しらなかったけど、友人を通して、結構離れたところに住んでいることを知る。
ラインで初めて連絡とったときから、しっくり感がすごくて、ほらね。ほらほらー。って気持ちになった。
簡単に会える距離じゃないけど、会うのが困難な距離でもない。わたしと彼の関係性はこれから変わっていくだろうって確信してた。してたからこそ、振り切れると思った。
意を決して切り出したのも、こういうことがあったから。
わたしに愛想尽かした彼に、渡したままだった合鍵を返してもらうよう連絡した。
目を逸らし続けた半年、一度も連絡を取れなかったのは拒絶されるのが怖かったから。
でも、もうわたしは揺らがないし、大丈夫だし、逃した魚は大きかったなざまあみろってな感じで連絡したのに、ダメだった。
わたしが郵送か、ポストに入れて置いてってお願いして、分かったよって事務連絡の返事がきただけなのに、舞い上がった。半年ぶりに意思疎通を図れたことがこんなにも。
悔しい。
元来ズボラなわたしには、ポストを毎日見る習慣がない。月に1、2回ポストを覗いて、大量に押し込められたチラシにうんざりしながら、中身もろくに見ずにまとめて破棄。
この、人生において無駄オブ無駄な一連の動作を定期的に続けてる。そんなわたしがここ一週間毎日ポストを覗いてる。
彼がここにいた形跡を探してる。ストーカー心理に近いので危ない。
わたしに愛想尽かした彼のことを忘れようとした半年、結局焦がれるような思いがなくなっただけで、嫌いにまではなれなかった。
毎日思い出したりはしないけど、ときどきぼんやり、今何してるのかなとか片思い中の女の子みたいに思ってた。多分、はたから見たら片思い中の女の子で間違いないんだけど。MOROHAのバラ色の日々がやけに沁みる。語らないでくれ。
ずっとずっと返さないでほしい。鍵が戻ってきたらもう、何もなくなってしまう、それでもいいと思ったから返して欲しかったのに。軽率。
これからどうなるんだろう、どうなるもなにも、鍵を持ってる彼とはどうもにならないし、同級生の彼ともなるようにしかならないんだけど。
振り切る。
でも、それとこれとは別の話で、体は元気。
相変わらず会社の人には毎日殺意抱いてるし日々の暮らしにハリもないけど。
アマゾンプライムで映画見たり間接照明の部屋で音楽流しながらハチミツ入りのホットミルク飲んでると、あー、幸せだなぁって思います。作り置きなんか始めちゃったりして、毎日いい匂いの入浴剤のお風呂に入っちゃったりして、一人に馴染んできた。
なんだか、彼氏がいる日々の方がずっとずっと寂しい。周りの結婚報告もサラリと聞き流せるようになって、焦りなんかひとつもない。
土俵から降りられて、私の居場所は元々ここだったのかぁ。そうだよなぁって気付く。
終わり。